『人質生活から始めるスローライフ』レビュー

異世界で生きる物語
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スローライフといえば、マイペースに生活を楽しむライフスタイルです。

未開の地を開拓したり、チートなスキルで衣食住を揃えたりするのが異世界スローライフの定番。

しかし本作は城が舞台。生活水準はかなり高い状態でのスローライフ。

そんな一風変わった『人質生活から始めるスローライフ』のあらすじや作品の魅力について紹介していきます。

あらすじや他情報

辺境の小国ピアリーの第二王女・センテイは、ある秘密を抱えていた。
――それは、前世で日本に生き、平穏な人生をまっとうした記憶。

転生しても静かな暮らしを望んでいた彼女だったが、大国アンテの要請により「留学」という名目で人質として送られることに。
重々しい立場のはずなのに、周囲の大人たちはなぜか皆やさしく、センテイ自身ものびのびとした生活を送ることになる。

そんな中、センテイが心のよりどころとするのは“キッチン”。料理という小さな楽しみを通じて、人と心を通わせ、城の空気をゆっくりと変えていく。

キッチン発のスローライフストーリー。

『人質となった王女は、キッチンを望む!』を今すぐ試し読み

作品基本情報

タイトル人質生活から始めるスローライフ
作者小賀いちご
出版社 / 掲載誌竹書房/バンブーコミックス
ジャンル異世界、料理、スローライフ
巻数4巻完結
アニメ・ドラマ展開なし

世界観や舞台設定

異世界ではあるものの、魔法もなければエルフや獣人もいない、モンスターもいない。ファンタジー要素がほぼないアンテ国のお城の中が舞台。

食事情は日本と異なり質素そのもの。味噌や醤油といった調味料は存在するけど、誰にも認知されていない、そんな感じの世界観。

そんな世界で唐揚げやピザ、出し巻き卵等を振舞うとどうなるのか・・・

ほっこりする世界観をお楽しみください。

作品の魅力

人質スタートなのに癒される――そんな不思議な魅力が、この物語には詰まっています。
王女センテイがキッチンで紡ぐ毎日は、ただ穏やかなだけではなく、小さな気づきと大きなやさしさにあふれています。

ここでは、そんな本作の魅力をじっくりご紹介します。

異世界グルメの説得力がすごい

2巻第8話での「味噌汁」と「生姜焼き」は、ただの料理シーンではありません。

異世界人のカインドとビジトが、無言で食べ進める描写がかえってリアルで、「これは本当においしいんだな」と伝わってきます。食後の余韻あるリアクションも絶妙。

さらにトン汁実演販売での子どものひとことが“起爆剤”になる展開は、筆者の心に残る名シーン。
食で世界が動く――そんな感覚が心地よく伝わってきました。

穏やかなだけじゃない、“構造”を感じさせる物語

表面的には優しい世界のようで、実はセンテイの自由を妨げていたのはモルーゼたちの利権。

「品格維持費」の横領というリアルな理由と、そのための人質っぽさの演出――これがセンテイの誤解と物語の構造が自然にリンクしていく見事な脚本。

しかも、国王やフィロー、フリードたちは本当に思いやりのある存在で、「最初から敵ではなかった」ことがわかっていく流れにほっこり。

新体制突入!スローライフの危機と逆転劇

モルーゼたちが解雇され、新しい世話係たちがやたら大人数で登場――という軽妙なユーモアにセンテイだけでなく筆者も「人数多すぎっ」とツッコんでいました。


一方で新メンバー・フェーバが「姫が料理なんて」と厳格な価値観を持っており、センテイのスローライフが危機に。

この流れも本作ならではの面白さ。
料理を封じられるかも…という緊張を経て、国王に料理を振る舞って“公認”を得る展開は爽快そのものです。

スローライフものにして、物語の着地がうまい

よくあるスローライフ系は「ゆるく終わる」「目的が見えなくなる」パターンも多い中、本作はきちんと伏線を回収し、センテイの立場・人間関係・生活の安定という三本柱が満たされた状態で完結

読後感バッチリなのが最大の魅力に感じます。

見どころ・注目シーン

  • キッチンをプレゼントされたときのセンテイの顔。見開きで衝撃の大きさを物語っています。(1巻2話)
  • 2巻9話のトン汁実演販売。上述しましたが筆者は一番好きなシーンです。
  • いつもクールなフィローの表情が穏やかになった食事シーン(4巻20話)

こんな人におすすめ

  • 料理がつなぐ関係にグッとくる人
  • 人質という設定の意外な展開にワクワクしたい人
  • 登場人物がいい人多めな物語に弱い人
  • スローライフものは着地が大事だと思っている人

まとめ

『人質生活から始めるスローライフ』は、「人質」という重い立場から始まりながらも、キッチンという小さな場所から世界を変えていく優しい物語。

クセはあっても根は優しい登場人物たち。派手さよりも温もりを重視した物語運び。

そして最後には、スローライフ系ではなかなか味わえない「ちゃんとした着地」で締め。おすすめです。

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